幼稚園02
依頼内容【1】:少人数クラスをつくるために部屋数を増やしたい
年少児、年中児、年長児まで合わせて200人を超えるお子様を受け入れている幼稚園から増築設計の依頼があった時の話です。
この頃の子どもたちは、たった1年で見違えるように成長します。
裏を返せば、一つ年下なだけで大変手がかかるということです。
そこでこの園では、年少のクラス数を1つ増やすことを決めました。
1クラスあたりの園児数を減らすことで、より安全で、かつ丁寧な教育・保育環境を充実させようというお考えがあったのだと思います。
依頼内容【2】:専用の預かり室で園児も先生も快適に
もう一つの要望が「専用の預かり室の整備」です。
設計依頼のあった頃から、女性の社会進出の活性化や働き方の多様化、保育施設の不足などで、必要な時のみ子どもを預けられる一時預かりの需要が急速に増えていました。
また増築前は、一時預かりを各クラスルームでしていたため、先生方は翌日の準備作業に不便を感じていたようです。
これら複数の問題を解決するのが専用室の整備でした。
つまり一時預かり専用のお部屋をつくるというご要望は、社会ニーズへの対応だけでなく、子どもたちが安心してのびのびと学べるスペースを確保すると同時に、先生方の労働環境の改善という側面もあったのです。
依頼内容【3】:様々な使い方に対応できる保育室をつくりたい
3つ目のご要望として受けたのが「様々な使い方に対応できる保育室の整備」でした。
小さな子どもは体調を崩しやすく、園内での感染症対策は非常に重要です。
また、幼児は1年違うだけで体格や遊び方も全然違います。
年齢によって部屋の間取りをフレキシブルに分けられ、かつ時期によっては感染症対策として、さらには時間外のお預かりに利用可能な、臨機応変に対応できるスペースが望まれていました。
設計の要点【1】:子どもたちの遊び場を減らさない
すでにある幼稚園の敷地内で部屋数を増やすため、どうしても既存のグラウンドが狭くなってしまいます。
実際、下記の写真にあるように既存のL字型の園舎に囲まれるように増築したため、そのままだとグラウンドが狭くなってしまいます。
それを補完するために提案したのが、屋上テラスです。
子どもたちが外でもたくさん遊べるように、屋上に空間を作ることにしました。
天気のいい日は屋上テラスで昼食をとったり、走り回ったりとグラウンドが見渡せる大人気の屋上テラスができました。
新たに増築した部屋の上(屋根)のスペースを活用する形になっています。
設計の要点【2】:見通しと風通しのよい建物づくり
増築にあたり、先生方が何度もおっしゃっていたのが「園児の様子が見渡せること」でした。
そこで、増築しても完全な死角が生まれないように設計しました。
一つ目は、職員室から手前のクラスと奥のクラスの両方が見える状況を作るため、視界が抜けるようにしました。
建物があっても奥のスペースまで見えるように扉と窓ガラスを配置。
屋外のどこからでも、子どもたちの様子が見渡せるように設計。
増築分は全面ガラス張りにして、室内からでもグラウンドからでも子どもたちの様子が確認できるようにしています。
完成後、グラウンドにいる子どもたちが中の様子を見て入ってきたり、逆に中にいる子どもたちが外の様子を見てグラウンドに出ていくといったことが起こったそうです。
意図していないことが起こったわけですが、「新しい何かを発見していく」と先生がおっしゃっていたのが印象的で、私も嬉しくなりました。
設計の要点【3】:屋内と屋外を一体化して広く使えるように
限られた敷地を有効活用するために、屋内と屋外の空間を一体にして使えるよう設計しました。
というのも200人以上の園児が在籍しているため、お遊戯会などの行事で保護者が集まればあっという間に数百名規模となり、ホールに入りきれません。
そこで外からでも見えるように、グラウンドとの境界に大きく開放できるサッシを設置しました。
全開放し、保育室をステージに見立て、グラウンドを観覧席として活用することができます。
その他にも先生方の柔軟な発想に対応できるよう空間にも柔軟性を持たせました。
手前は保育室、奥の部屋は預かり室。一体で利用することも可能で、様々な使い方が考えられます。
冬場のお迎えの時間になるとあたりも暗くなります。
調光式の照明で夕方は電球色にし、家のような温かみのある空間で家族のお迎えを待ちます。
設計の要点【4】:安全性を守りながら遊び心をくすぐる室内に
室内にカウンターを設置し、バーのようにおやつをカウンター越しに出すスタイルで設計。
遊び心をくすぐりつつ、カウンター内に空調や照明のスイッチやコンセント類などを配置して、子どもが勝手に触らないよう安全面にも配慮しました。
カウンターの壁面には、テレビやビデオデッキを置くシアターコーナーにして、スペースを有効活用できるようにしています。
簡易のステージは、私が想像した以上に子どもたちと先生方が多用途に活用いただいているようです。
ダンスが好きな子は上がってオンステージ。読み聞かせの時間には、先生がステージの上に上がり、子どもたちが囲むように床にお座り。まだ足元がおぼつかない小さな子をちょっと寝かせてお世話するスペースに。
子どもがいる場所はいつも、無限の想像が広がります。
また子どもは、他の子がやってるのを見よう見まねで会得していきます。
お互いに見る・見られる関係を色々なところで作っていくことで、成長を重ねていく姿を見てきました。
そこで壁にちょっと覗きたくなるような小窓を設置。高い方は大人が子どもの安全を確認する窓として使えるようにしています。
設計の要点【5】:太陽の光で子どもたちが遊べる仕掛け
以前、幼稚園の設計をさせていただいた時に、丸い窓を採用したことがありました。
後にその幼稚園の先生から「太陽の動きに合わせて丸い影がクルクル動くのを、子どもたちが追いかけて楽しんでいる」というのを伺い、光の仕掛けをまたいつか使いたいと思っていました。
そこで、太陽の光が射すところに天窓を設置して、ある時間から光が落ちてくるような設計にしました。
私が学生だった頃、その存在感に圧倒されたローマのパンテノンをイメージしたのはここだけの話です。
天窓を下から見た子どもは「目玉焼き」と言ったり、各々色んな表現をするのは興味深いです。
設計の要点【6】:楽しくトイレに行けるように
先生方との話の中で、トイレに行くのを嫌がる子も多いとお聞きしたので、ちょっと楽しくなるような仕掛けを作りたいと思いました。
「不思議の国に行くよ!」そんな声かけができるトイレです。
設計の要点【7】:とことん安全性を追求する
ここまで何度か安全性について触れてきましたが、お子様をお預かりする施設である以上、非常に重要なことです。
自由さや遊び心も大事にしつつ、時間帯によって堅牢な扉で使用をコントロールできるようにしています。
一方で安全すぎる場所で育つと、注意力がなくなってしまうため、施設内にあえて階段を作るなどしました。
わずかな仕掛けかもしれませんが、子どもたちのこれからの長い人生の成長の一助となれば幸いです。